そもそも特許の社会的役割は何?
特許を取れば大金持ち!というイメージが世間にはある? 本当だろうか!執筆者は気になってアンケートをとったことがある。
対象者は大学院MBAコースの学生さんだ。全員社会人経験がある。アンケートの結果は、約三分の一の人がYESというものであった。
これには驚いた。特許の社会的役割は余り理解されていない、ということではないか! かといって、一介の弁理士が特許のビジネス上の役割をとうとうと論じて、世間様に認識を改めてもらえるだろうか(実はMBAコースの授業では、そう期待してしゃべっているのだが)。
と、悩んでいるとき、格好の書籍を見つけた。『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』である。そこに出てくる項目“あえて独占を認める「特許制度」”のポイントは、つぎのとおり。
「資金と時間と労力を注ぎ込んでようやく新薬の開発に漕(こ)ぎ着けてから、誰かがやってきてあなたの製法を真似て薬を作り始めたとしたら?……相手は開発コストをいっさいかけていないのだから、あなたより大幅に安く販売できる。……
こうした事態になる可能性があるとわかっていたら、そもそも新薬の開発にあなたは乗り出すだろうか?答えはたぶんノーだ。……
特許権の保有者だけが新薬を製造販売できるとなれば、投じた費用を回収できる可能性は高い。逆説的なようだが、このような場合、独占はイノベーションを阻むのではなく、むしろ後押しする効果がある。」
この最後の2行がキモになります。実にうまく説明されています。ホッとした。というのは、執筆者作のMBAコースのテキストにも、自分の企業体験を基にして、同様の解説をしていたのだ。ホッとした、というのは自分が間違っていなかったという意味である。
皆様には、ぜひ『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』(イングランド銀行、ルバル・パテル、ジャック・ミーニング著、村井章子訳、2023年08月26日刊、株式会社すばる舎)をお読み下さい。101~102頁です。
執筆者は、次回に、特許制度のうまい使い方、格好良くいうと「特許戦略」に触れたいと思っています。なんとそれは生物の生存戦略に似ているのです。では、次回をお楽しみに!
山内康伸