ブランディングと弁理士
日本弁理士会四国会の会員の藤原尚恵です。私は、徳島生まれ、徳島育ちで徳島県にて、弁理士として仕事をしていました。数年前から大阪に拠点を移し、今は商標、意匠を専門とする事務所に勤めております。四国会のみなさまには大変お世話になったので、今も四国会に籍を残し、できる範囲で四国会に貢献しようと思っております。
さて、今回は、最近よく耳にするブランディングやブランドについて、弁理士がどのように貢献できるかという内容を紹介したいと思います。
今や日本の市場はありとあらゆる物やサービスに溢れており、自社の商品・サービスをどのように他社の商品・サービスと区別するか、みなさん悩まれるところではないでしょうか。
そのような状況下において、重要性を増しているのが「ブランド」です。「ブランド」というと、一般的に「高額なもの」、「高級なもの」をイメージする方が多いかもしれません。
ブランドの定義は諸説ありますが、その1つとして、ある特定の商品やサービスが消費者・顧客によって識別されているとき、その商品やサービスを「ブランド」と呼びます。つまり、ブランドとは、ありとあらゆる物やサービスの中から自社の商品・サービスを識別してくれるものであり、消費者・顧客の購買決定に影響を与えるものです。
そして、自社の商品・サービスをブランド化することをブランディングといいます。具体的には、企業が製品・サービスによって提案したブランド独自の価値「ブランド・アイデンティティ」と、消費者・顧客が心の中に抱く心象「ブランド・イメージ」を近づけ、一致させる活動をいいます。この「ブランド・イメージ」は、企業が消費者・顧客に特定の刺激を与え続けることにより、消費者・顧客の心の中に醸成されます。
その刺激の1つがブランド要素です。代表的なブランド要素は、以下の9種類です。
1.ブランド名
2.ロゴ、マーク
3.色
4.キャラクター
5.パッケージ、空間デザイン
6.タグライン(キャッチフレーズ)
7.ジングル(短い曲、効果音など)、音楽
8.ドメイン(URL)
9.匂い ※出典 ブランド・マネージャー資格試験公式テキスト
そして、これらのブランド要素は、知的財産法、不正競争防止法で保護できる可能性があります。つまり、弁理士の専門の守備範囲です。
例えば、食料品を扱う企業A社のブランド・アイデンティティが「新鮮な地元産の食材をすぐにお届け」だったとして、消費者・顧客の心の中に「新鮮な地元産の食材をすぐにお届け」の「ブランド・イメージ」が醸成されるよう、ブランド名・キャッチフレーズを考え、パッケージを工夫し、大々的に広告宣伝したとします。その結果、それらブランド名・キャッチフレーズ・パッケージを介して新鮮な地元産の食品をすぐに届けてくれるのはA社であるとのブランドが確立したとしましょう。
それにもかかわらず、ブランド名・キャッチフレーズを商標として登録していない、又は、パッケージについて意匠権を取得していないとどうなるでしょうか。他社にブランド名・キャッチフレーズ・パッケージをまねされ、類似品が出回った結果、せっかくのブランドが台無しになってしまう可能性があります。
そこで、ブランディングをやってみる際は、ちょっと弁理士にも聞いてみようと思っていただけると思わぬトラブルを回避できるかもしれません。
最後に、いくつか成功例をご紹介します。
まず、ブランディングの成功例を1つご紹介します。
今やエナジードリンクの代表格であるレッドブルですが、日本で商品販売を開始した当時、エナジードリンク業界はすでに飽和状態でした。
競合他社が配合成分などの有効性、つまり具体的な効果を強調する一方で、レッドブルは自社のブランドコンセプトである「冒険者を称え、翼を授ける」というメッセージを繰り返し伝えて、消費者・顧客の心の中にブランド・イメージを醸成し、ブランドを確立させ今の地位を築きました。
次に、商品名やパッケージを変更して売り上げが伸びた例を2つご紹介します。
ひとつめは、王子ネピアのティッシュペーパーです。1996年に「モイスチャーティッシュ」という商品名で発売されましたが、売り上げは伸び悩んでいました。2004年に「鼻セレブ」に改名するとともに、パッケージもうさぎやゴマフアザラシなどふわふわ系の動物パッケージに変更しました。その結果売り上げは10倍以上になりました。
ふたつめは、岡本株式会社のソックスです。2013年に「三陰交をあたためるソックス」という商品名で発売されましたが、売り上げは伸び悩んでいました。2015年に「まるでこたつソックス」に改名し、パッケージも変更したところ、売り上げが17倍以上になりました。
弁理士というと特許のイメージが強いかもしれませんが、ブランドの価値を守り、育てるために、ぜひ弁理士を頼ってみてください。
日本弁理士会四国会 弁理士 藤原尚恵