コラム

2024.08.28
その他

中小企業の特許利活用について

日本弁理士会四国会の末光です。これまで関西のメーカーで開発者~知財部員として従事しておりましたが、地元愛媛県へのUターンを機に退職し、今年5月から開業弁理士として活動しています。同時期に弁理士会四国会に加入し、主に研修等委員として会員向けの研修会の開催等に携わっています。

 

開業にあたっては愛媛県の産業や知財に関する状況を確認しましたが、大きな課題として、①各産業の製品の付加価値率が低迷していること(特に第二次産業は全国平均32%に対して愛媛県は24%で全国45位※1)、また②特許出願している中小企業の割合が低いこと(愛媛県:0.14%/全国平均:0.30%※2)が挙げられます。これに関して、特許を所有していない企業群は所有している企業群に比して営業利益率が低いといった統計※3もあり、中小企業の特許利活用の不足が、各産業の低い付加価値率の一因であることが推察されます。

 

愛媛県の中小企業において特許利活用が不足している原因については、特許に対する理解が不十分であり特許情報の把握・活用ができないことや、特許業務に割くリソースや体制が不足していること等が挙げられており、全般的に課題がある状況です※1。このような課題は、愛媛県のみならず多くの地方都市が抱えているものと推察しますが、特に製品の高付加価値化に直結する特許情報の把握・活用法を如何に分かりやすく提示して実践頂けるかが、地方に所属する弁理士のミッションの一つであり、中小企業の特許利活用の促進にとって最重要であると感じています。ここでは、その特許情報の把握・活用の観点から、中小企業が特許を利活用するメリット/必要性について記載いたします。

 

新規事業の創出や既存事業の深化に苦心している中小企業は多いと存じますが、まずは自身が実施する事業の状況把握が必要不可欠です。ここで事業とは、「課題に対する解決手段」を、それを欲する対象に対して提供することですが、「課題に対する解決手段」はまさに特許公報の構成そのものであり、特許公報は出願人各社における事業の実施態様を手段ごとに表現しているものといえます。例えば、競合の特許公報を読めば自社に近い技術シーズの動向がつかめますし、お客様の特許公報を読めば顕在ニーズやそこに隠れた潜在ニーズがつかめるかもしれません。そのような特許情報を的確に把握することで、競合技術の知見を自社技術に応用することや、お客様の潜在ニーズに訴求するためのインサイトが得られる等、事業(特に、マーケティング)に活かすことができます。

 

また、変化の激しい現代では、自社のみの技術開発であると求められるスピードや多様性にマッチできない場合も多いため、オープンイノベーションが活発に行われています。このオープンイノベーションにおいては、まずは自社が開発した技術を担保するために特許を調査分析、出願・権利化した上で情報を展開して、他社との協働につなげるケースが多いです。実際に、徹底した特許情報の把握、調査分析により、それをオープンイノベーションに活かして成功した中小企業の事例は数多くあります。

 

私自身も以前勤務していたメーカーで特許情報を活かした新規事業創出を検討しておりましたが、比較的大きな組織であったことも起因して部門間の情報共有や連携に障壁があり、特許情報に基づいて提案した事業戦略を議論して結論を得て実現するのに非常に労力がかかる状況でした。この点について、経営者や各部門間の距離が近い中小企業であれば、特許情報をより円滑に事業に活かせるケースも多いのではないかと考えております(勿論、大きな組織でも体制やシステムを工夫して特許戦略を円滑に実行している事例はございます)。

 

一方で、特許公報は膨大かつ分かりづらいこともあるため、リソースの少ない中小企業にとって調査分析が困難な場合もあると考えますが、近年ではパテントマップという特許情報を簡単に表やグラフで視覚化できるツールが発達しています。パテントマップによって、特許出願や技術分野の動向(だれが、いつ、どのような技術を、どの国で検討しているか)を直感的に把握でき、さらにそこから所望の分野を絞りこんでプレイヤーや技術等の詳細確認を効率的に行うことができます。得られた特許情報は、市場情報と合わせて事業戦略や協業パートナーの検討、意思決定に活用することができます。

 

※パテントマップ作成については多数の商用ツールが提供されており、調査対象の母集団を入力すれば、後はワンクリックで種々のグラフを出力させることができる便利なものもあります(以下特許庁HPのパテントマップ作成サービスリストご参照)。また、Excel等の表計算ソフトでも、処理に手間はかかりますがパテントマップの作成は可能です。
特許情報提供事業者リスト集 5.パテントマップ作成サービス | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

特許情報の把握、活用について検討されている場合は、ぜひお近くの弁理士までご相談いただけたらと存じます。また、日本弁理士会四国会が実施している弁理士知財キャラバンでは、無料で特許(知財)の活用支援も行っておりますので、是非ご活用ください。

 

(参考)
※1 愛媛県知的財産戦略_令和5年(愛媛県)
※2 特許行政年次報告書2023(特許庁)
※3 中小企業の知的財産活動に関する基本調査_平成30年(特許庁)

 

日本弁理士会四国会/弁理士(特定侵害訴訟業務付記)
末光 準