他人の登録商標と同一又は類似の自社商標について登録を受ける手法 Part2
前回の知財コラムでは、他人の登録商標と同一又は類似の自社商標(本稿において、「自社商標」とは、企業や個人が登録出願しようとする商標のことを表します。)について登録を受ける手法として、(1)他人の登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅するのを待つ手法と、(2)自社商標の登録の障害となる商標権を保有する他人(以下「先行商標権者」ともいいます。)と交渉し、アサインバックの承諾又はコンセントを得る手法を紹介しました。今回は、(2)の内容の続きから始めたいと思います。
「アサインバック」、「コンセント」、という言葉は聞き慣れないかもしれませんので、[A]「アサインバック」の承諾、[B]「コンセント」の取得に分けて、どのような内容かを説明します。
まず、[A]についてです。「アサイン」という言葉は、「譲渡する」という意味合いで、「バック」は、「戻す」という意味合いですので、「アサインバック」とは、「譲渡して、戻す」といった具合の意味です。では、「何を譲渡して、戻すのか」といいますと、自社商標に関する権利を一旦先行商標権者に譲渡し、自社商標について登録を受ける際にその権利を自社に戻す、というのが「アサインバック」の意味です。
まだ分かりにくいと思いますので、もう少し説明を加えます。自社商標について登録が認められない理由は、「自社商標が『他人の(先行商標権者の)』登録商標と同一又は類似する」ためです。すなわち、自社商標と登録商標とで名義人(権利者)が異なるため、自社商標について登録が認められない、という状況になっていますので、自社商標をその「他人」の名義(先行商標権者の名義)で出願してもらえば、自社商標は「他人の」登録商標と同一又は類似、ということにならず、登録が認められる、ということになります。
まとめますと、自社商標を他人の名義(先行商標権者の名義)で出願し、審査を通過して、登録を受ける段階で、他人(先行商標権者)から自社に自社商標に関する権利を戻してもらうことを「アサインバック」といい、「アサインバック」の承諾が他人から得られれば、自社商標について登録を受けることができる、ということになります。
次に、[B]についてです。「コンセント」という言葉は、「同意」という意味合いです。すなわち、「コンセント」の取得とは、自社商標について登録を受けることにつき、先行商標権者の同意を取得することをいい、その同意をしたことを特許庁に対し証明することによって、自社商標について登録を受けることができます。このような手続は、令和6年4月1日に改正商標法が施行されたことによって認められることになりました。「コンセント」の制度は施行されて間もないため、実務上の運用で不透明な部分が残っていますが、改正商標法の施行により、「コンセント」の取得によって自社商標の登録を目指す、ということもできるようになりました。上記[A]の「アサインバック」はやや裏技的で、自社商標についての権利を一時的とはいえ他人に譲渡する、ということに違和感を覚え、抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。「アサインバック」の手法を採ることに抵抗を感じる方は、「コンセント」の取得によって自社商標の登録を目指すのがよいかと思います。
[3]他人の登録商標と同一又は類似の自社商標について登録を受けるための三つ目の手法は、他人の登録商標について不使用取消審判を請求して、他人の権利を消滅させる、というものです。商標法では、登録後3年以上継続して登録商標が不使用の状態にある場合、不使用取消審判を請求することによってその権利を取り消すこと(消滅させること)が認められています。商標権の存続期間は、登録日から10年間、その後更新登録を行うことで10年ごとに権利期間を延長することができる、ということになっている関係上、実際には使用されていないにもかかわらず、商標権は存続したままになっている、という状態も少なくありません。他人の登録商標の使用が確認できない場合は、不使用取消審判の請求を検討する余地があります。
以上、自社商標と同一又は類似の他人の登録商標が既に存在する場合に、自社商標の登録を目指す手法を紹介しました。前回と今回のコラムで書ききれなかった事項や、他の手法も存在します。相談者のご意向に沿ったかたちで商標登録を目指せるよう一緒に検討してまいりますので、商標登録についてお困りの事項がありましたら、弁理士にご相談いただければと思います。
日本弁理士会四国会 弁理士 洲崎竜弥