コラム

2024.06.25
意匠・商標

他人の登録商標と同一又は類似の自社商標について登録を受ける手法 Part1

 日本弁理士会四国会の研修等委員会の委員を務めております洲崎竜弥です。私は、生まれ故郷である香川県にて、弁理士として仕事をしています。私が委員を務める研修等委員会では、弁理士としての知識や技能を研鑽するための研修の企画・運営を行っています。弁理士法には「継続研修制度」が規定されており、弁理士は、5年間で70単位以上の研修を受講することが義務付けられています。研修等委員会が企画・運営する研修は、弁理士資格を維持継続するための単位を取得するためのもの、でもあります。
 
 さて、今回と次回の知財コラムでは、企業や個人が登録出願しようとする商標(長いので、以下「自社商標」と略します。)と同一又は類似の商標が既に存在する場合に、どのような手法で自社商標について登録を目指すことができるか、という内容を紹介したいと思います。
 
 商標法には、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない、旨が規定されています。
 条文そのままは分かりづらいと思いますので、要素を分解してみると、「①出願した自社商標が、その出願の日よりも前に出願された他人の登録商標と同一又は類似であること(商標が同一又は類似)」、「②自社商標の出願に含まれる商品・役務が、他人の商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似であること(商品・役務が同一又は類似)」の両方を満たす場合は、自社商標について商標登録を受けることができない、ということが商標法に定められています。
 
 上記①、②の両方を満たす場合に自社商標について登録を受けることができない、ということになっていますので、自社商標と同一又は類似の他人の登録商標が存在しても、商標を使用する分野(商品・役務)が相違する場合(上記①は満たすが、上記②は満たさない場合)には、自社商標について商標登録を受けることができます。
 また、上記①、②の要件は、自社商標について商標登録が認められるか否か、を判断するものですが、上記①、②の両方を満たす場合、自社商標を実際の商売において使用する行為は、他人の商標権を侵害するものとして認定される可能性が高い、という点にも注意を要します。すなわち、上記①、②の両方を満たす場合、自社商標について商標登録を受けることができないだけでなく、商売において使用をすると、他人の商標権を侵害する可能性が高いため、他人から権利行使(差止請求や損害賠償請求)を受ける法的リスクも高い状態にある、といえます。そのため、自社商標について商標登録を受けて、自社商標の使用をすることについての権原(自社商標についての商標権)を取得しておくことが強く望まれます。
 
 話が少し脱線しましたので、本題に戻ります。上記①、②の両方を満たす場合、原則、自社商標について商標登録を受けることができないのですが、いくつかの手法で自社商標の登録を目指すことができます。
(1)一つ目の手法は、他人の登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅するのを待つ、というものです。商標権は、登録日から10年間存続し、更新登録がされることによって、権利期間が10年間延長されます。そのため、更新登録がされなければ、商標権は登録日から10年間経過すると消滅します(厳密には、10年間経過すると直ちに商標権が消滅するわけではないのですが、話を簡略化するために、補足説明を割愛します)。他人の商標権が消滅すれば、自社商標の登録の障害となる他人の登録商標は存在しなくなりますので、自社商標について商標登録を受けることができるようになります。ただし、この手法を採る場合、他人の商標権が消滅するまで、自社商標の使用を保留(場合によっては、商売も保留)しなければなりません。また、他人の商標権について更新登録がされると、この手法は採れませんので、更新登録されるか否か分からない状態で存続期間が満了するのを待つ、という不確定要素が含まれます。
 
(2)二つ目の手法は、自社商標の登録の障害となる商標権を保有する他人と交渉し、アサインバックの承諾又はコンセントを得る、というものです。前者の「アサインバックの承諾」による手法は、従来から認められていたものですが、後者の「コンセントの取得」による手法は、令和6年4月1日付けで改正商標法が施行されたことにより認められることになりました。
 
 「アサインバックの承諾」、「コンセントの取得」について説明を続けたいところですが、長くなってきましたので、今回の知財コラムはここまでといたします。続きについては、次回の知財コラムに掲載予定ですので、楽しみにお待ちいただけますと幸いです。

 

日本弁理士会四国会 弁理士 洲崎竜弥