先行技術調査及び新規性・進歩性の判断(概要)
日本弁理士会四国会の会務計画委員会及び広報小委員会に所属しております藤原敬子です。私は、メーカーで研究開発、特許事務所で特許出願等業務、特許庁で審査業務を経て、地元香川県に戻り弁理士として働いています。
ここ数年、香川県と愛媛県で知財相談員として活動し、地域の発明家や企業の皆様が抱える様々な問題に対応しながら、知的財産の普及に努めています。また、四国各地を訪問する際には、世界遺産への登録が期待されている四国八十八箇所等の名所・旧跡を巡っています。
来年には日本弁理士会四国会の発足20周年を迎えるにあたり、広報小委員会では、日本弁理士会四国会のPRを行うための様々な手段を計画し、実行に移しています。これらの活動を通じて、知的財産の重要性を広く伝えられることを願っております。なお、私のホームページ(https://iprfuji.com/contact/)にて、自己紹介等を行っていますので、よろしければご覧ください。
今回の知財コラムでは、知財に関するよくあるご質問のうちの1つをご紹介します。
特許出願したら登録可能かどうかについて、多くの発明家や企業の皆様から質問をされます。特許出願の登録の要件としては、新規性(特許法第29条第1項各号)があること、進歩性(特許法第29条第2項)があること等が求められます。新規性及び進歩性を有するかを判断するために、先行技術調査を行うことが望ましいです。2022年度には国内で289,530件の特許出願があり、2023年度には300,133件(『特許行政年次報告書2024(特許庁)』)の特許出願があり、さらにPCT出願を含めると、毎年30万件以上の特許出願が行われているため、調査対象は膨大な数となります。出願するつもりだった技術が既に公開されている場合、特許権を取得することが難しくなります。無駄な出願を防ぎ、時間とコストを節約するためにも、適切な先行技術調査を行うことが望ましいといえます。
先行技術調査:
特許、実用新案、意匠、商標の先行調査を行うための主要なデータベースの一つの特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)は、キーワードによる検索と分類による検索の両方が可能です。キーワードによる検索では、同義語を辞典やJ-GLOBALの同義語機能、技術用語集やWikipediaなどを活用して探すことができます。IPCやFI、Fターム等の特許分類を用いた検索は、検索漏れやノイズが少ないというメリットがありますが、分類の知識が必要であり、最新技術においては分類が未整備の場合もあります。
新規性及び進歩性の判断:
先行技術調査の結果を踏まえて、新規性及び進歩性の判断を行います。新規性及び進歩性の判断方法を『特許・実用新案 審査基準 第3部第2章第2節(特許庁)』から一部紹介します。
請求項に係る発明(ここでは特許請求の範囲に記載予定の発明案を表します。)の認定と、引用発明の認定とを行い、次いで、両者の対比を行います。対比の結果、相違点がなければ、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断し、相違点がある場合には、進歩性の判断を行います。
先行技術の中から、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)に最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、次の(1)から(4)までの手順により進歩性の判断を行います。
(1)請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素に係る諸事情に基づき、他の引用発明(以下「副引用発明」という)を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断します。
進歩性が否定される方向に働く要素について簡単に説明すると、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けがあるか否かを、
・技術分野の関連性
・課題の共通性
・作用、機能の共通性
・引用発明の内容中の示唆
の観点を総合考慮して判断します。
また、主引用発明からの設計変更等、先行技術の単なる寄せ集めなども進歩性が否定される方向に働きます。
(2)上記(1)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断します。
(3)上記(1)に基づき、論理付けができると判断した場合は、進歩性が肯定される方向に働く要素に係る諸事情も含めて総合的に評価した上で論理付けができるか否かを判断します。 進歩性が肯定される方向に働く要素としては、発明がもたらす有利な効果や、副引用発明を主引用発明に適用することを阻害する事情が考慮されます。
(4)上記(3)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断します。 上記(3)に基づき、論理付けができたと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していないと判断します。
以上、先行技術調査及び進歩性等の判断の概要を紹介しました。知財に関するご相談がありましたら、弁理士にお問い合わせいただければと存じます。
日本弁理士会四国会 弁理士 藤原敬子