コラム

2024.12.09
その他

大学発ベンチャー企業における技術・製品開発と知的財産の活用について

日本弁理士会四国会の出口です。2011年より徳島大学の教員として、レーザー計測技術を主とした研究開発関を進め、2018年2月に株式会社Smart Laser & Plasma Systems(SL&PS)という徳島大学発ベンチャー企業を起業しました。設立当時は、徳島大学内に15 m2程度の部屋を借りて事業を行っておりましたが、現在は、1,200 m2(6階建て)と200 m2(4階建て)の2つのビルにて会社を運用するようになりました。事業の拡大とともに、知財戦略に基づく企業運営が重要性を増してきています。SL&PSのようなベンチャー企業にとって、独自で知財戦略を立案することは難しく、今回、弁理士知財キャラバン四国の支援を受けましたので、その内容を紹介します。

 

SL&PSの主要な技術・製品は、プロセス環境計測装置(CT-TDLAS)と元素組成分析装置(LS-DP-LIBS)です。CT-TDLASは、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)技術を使い、産業プロセス内の温度、化学種濃度空間分布をリアルタイムで計測できます。また、LS-DP-LIBSは、原料、製品の元素組成をオンラインで分析することが可能です。ゴミ焼却施設や発電所、鉄鋼関連施設、半導体製造装置産業などの産業プロセスは、プロセス内部が把握できないブラックボックスであることも多く、トータルエネルギー消費やCO2排出量の低減には、プロセス内部を可視化し、的確に制御することが必要となります。当社の技術・製品を活用することにより、これらの産業プロセスの可視化・次世代制御が実現できます。

 

産業プロセス全体を全自動化するDX (デジタルトランスフォーメーション) 化プラットフォームの産業導入も進めています。当社の測定技術と既存のシミュレーション技術(現実世界で起こるプロセスをコンピュータ上に再現する技術)を融合し、デジタルツインにより産業プロセスの全自動化を行います。このDX化プラットフォームを用いることにより、プロセスデータをデジタルツイン内で管理でき、産業プロセスの変化を高精度で予測・制御可能な統合システムの構築が可能となります。

AI(人工知能)や、ビックデータを利用した技術革新が進む現代は、第4次産業革命の真っただ中であり、カーボンニュートラルなどの課題に対し、SL&PSの技術・製品を活用し、地球環境に貢献する企業を目指しています。

 

商品開発や国内外の機関・企業との連携を進める中で、経営やマーケティングを踏まえた知財戦略の強化が課題となっていました。このような状況下において、本年度、弁理士知財キャラバン四国をご紹介いただき、知財戦略の強化支援をいただきました。2名の先生方(弁理士)に3回ご訪問いただき、SWOT分析を含む「現状分析」、「課題抽出(5項目)」、経営における「課題解決のための提言」、「特許戦略」などのまとめをいただきました。パワーポイントを用いて分かりやすくまとめられており(29ページ)、現在、SL&PSの指針資料として活用しております。弁理士知財キャラバンの優れた点は以下の通りです。

 

・社内既存資料から現状・課題、戦略分析をいただける点

・知財調査などの調査結果を踏まえた分析をいただける点

・経営を踏まえた提言をいただける点

 

各機関で実施されている無料コンサルティングを複数受けましたが、上記のような資料を作成いただけるものはありませんでした。中小(特にスタートアップ)企業では、独自で知財戦略をまとめることが時間的・費用的に困難であり、当社にとって、弁理士知財キャラバンは非常に有益な支援となりました。知財戦略の立案は企業が成長するために不可欠であり、今後、弁理士知財キャラバンで支援いただいた知財戦略を軸として、更なる事業展開を目指していく予定です。

 

日本弁理士会四国会 弁理士 出口祥啓