弁理士に相談してみよう
今回は、知的財産コンサルティング(知財コンサル)について、私の経験に基づいてご紹介します。機関内に専門の知財部署を持たない企業や大学等の多くは、知財関連業務は兼務で対応されているようです。外部の専門家を活用すれば、その体制でも知財管理の質を上げることができます。リスクの芽を早く摘み、大切な知財を守るだけでなく、日常の知財管理の不安が取り除かれ、無駄な事務処理が省けるなど、業務の質と効率の向上にもつながります。
1.相談内容
私の顧客の中心がバイオ・医療系の研究者・研究機関のため少し偏りがあるとは思いますが、特許出願に直接関係するご相談は、実はそれほど多くありません。これまでご相談を受けてきた内容を、そのシチュエーションと併せていくつか挙げています。
(1)公的資金の申請書類に特許情報を記載する必要があるが、何をどの程度記入したらよいか
(2)学会で知り合った企業と面談することになり、秘密保持契約案を受け取った。どんなことに気を付けたらよいか。
(3)他機関から研究試料の提供を受けたい。相手方研究者の同意は得たので、契約手続きを支援してほしい。
(4)複数の機関が関わる研究を計画している。どの機関とどんな契約を交わす必要があるか。
(5)所属機関の事務から提出を求められた、利益相反管理の自己申告書に何をどう記入したらよいか助言してほしい。
(6)特許出願を行ったら学会や論文発表してよいか。
2.コンサル例
1で例示した相談内容ごとにコンサルの一例を示します。
(1) 申請書に記入する特許情報
自らの技術に関わる「特許情報」を書式に合わせて記入例を示します。長期の顧客は基本特許情報はすでに整っているので情報を更新して伝えます。新規ならば、特許情報プラットフォームJ-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で簡易検索して情報を提供します。
(2) 秘密保持契約書案の検討と対応助言
契約条件の中で、研究者をしばる条項を抽出し、許容可能か確認してもらいます。研究者が企業と面談するときは、うまくいかないときのことも考えて、開示範囲を段階的にすることを勧めます。
(3) 研究試料提供契約
バイオ・医療分野では研究試料の授受に、研究試料提供契約MTAを交わす場面があります。通常の契約と同様、研究者をしばる条項を抽出し、許容可能か確認してもらいます。原則、提供側が契約案を提示するため、自らが提供側になるときは起案して相手方に提示する必要があります。
(4) 実態に即した契約形態の提案
複数機関と一つの共同研究契約が最適な場合もありますが、機関が多いほど契約の合意に時間も労力もかかりがちです。研究試料の授受に留まる機関とはMTA、蜜に協力する機関とは共同研究契約、情報の授受のみなら秘密保持契約、といったように、実態に即した少数の契約を提案することもあります。
(5) 利益相反管理
所属機関ごとの様式をまず確認したうえで、関係する共同研究先・委託先等の抽出、受領する研究費・委託費の額、兼務先情報など、不足情報があれば収集を依頼しながら、管理書式への記入方法を助言します。
(6) 出願情報の公開のタイミング
対象となる技術の状況で対応が異なるため、まずは十分ヒアリングします。アカデミアの知財の場合、特定の企業が関係していなければ原則、出願後の学会・論文発表は妨げませんが、企業が関係する場合は企業の意向に沿います。たいていは出願日から1年半(出願公開日)まで待ちます。追加データの取得が予定されている場合なども早期公開は控えるよう助言します。このように、研究開発に関する情報に基づいて判断しますので、こうした情報提供にご協力いただくことが大変重要になってきます。
3.相談の仕方
ご相談先に応じて多様な形があり得ます。例えば、私が応じてきた形としては、ご相談の受付・回答は、基本はメールで行っており、込み入った案件等は電話やウェブ会議を利用しています。ご要望に応じて現地での面談や会議への同席にも、交通費実費で対応いただきます。私の場合は愛媛県北端の離島在住のため、交通費がかさみがちなので、できるだけウェブ会議を活用する方針です。
相談先には、たとえば日本弁理士会四国会の無料相談会(https://jpaa-shikoku.jp/soudan/)を活用したり、個人・法人の特許事務所に直接相談します。特許事務所のホームページは弁理士の経歴や技術分野などの参考になります。一般的なコンサルティングと同様、会社や大学等の状況を把握することでより的確な助言を速やかに行えるようになりますので、単発より年間契約がお勧めです。ご相談もそのほうがしやすいと思います。年間契約では相談の分量や範囲に応じた条件を定めていきますが、通常、年間契約以外に別料金となる案件(出願や調査など)もありますので、疑問点は事前に十分説明を受けて納得した上で契約するようにしましょう。
4.補足
アカデミアの研究者の知財コンサルについて
知財コンサルは、機関の知財業務の支援のほかに、ラボ内知財業務をアウトソースして研究に集中したい研究者の方にもご利用いただいています。「PI(研究室の長)は中小企業の社長と同じ」、とかつてPIの方が話されていました。実際にコンサルして納得、研究室は知財が生まれる現場ですから知財を取り扱う事案が多くなるのも当然です。それに伴う事務負担がすべて研究者にかかることに問題がありました。近年、大学等では、研究者まわりの事務支援を担うリサーチ・アドミニストレーター(URA)という職種も広まり、研究者を支援する体制が整ってきました。そうした方々とともに、知財を生み出す原動力となる研究現場を支えていくことができればと願っています。
日本弁理士会四国会 弁理士 壬生優子