新幹線の鼻
今年2024年は新幹線開業60周年に当たる。日本の高速鉄道の歴史を振り返る節目となる年だ。また、国鉄が分割民営化されて37年になる。JR6社の中でJR四国の営業エリア内だけまだ新幹線が走っていない。四国4県の意見が瀬戸大橋ルートにようやく一致したので導入運動にも力が入ると思われる。もちろんJR四国は新幹線導入を待ち望んでいるはずだ。新幹線が走っていないにもかかわらず四国鉄道文化館には新幹線0系の実物が展示されている。また、宇和島駅のホームで見た列車には驚いた。「なんで此処に0系が?」と思った。青と白のツートンカラー、先端の団子っ鼻、どう見ても「0系新幹線」である。そっくりさんのディーゼル列車だ。JR四国は0系がお気に入りのようだ。
新幹線の先頭車両の形は、スピード指向の流線形や円錐形、安定性に重点を置くカモノハシ形など様々に変遷してきた。これらは技術的要請から生まれてきた形状だが、デザイン的にもユニークなものになっている。このように新幹線の先頭部分は特徴のある形になっていて、それを見るだけでどのタイプの新幹線か判別できる。新幹線車両を開発しているJR各社や車両メーカは先頭部分の多くを物品の一部に対して権利を取得できる『部分意匠』として権利化している。
意匠はデザインを保護する制度だがその中に『部分意匠』という制度がある。デザイン開発においては全体のデザインは伝統的なデザインを活かしつつ、ある部分のみを変化させてデザインを変更することがよく行われている。その場合、特徴的な部分のデザインを取り込みつつ、全体として非類似とするような巧妙な模倣を防ぐために、その部分のデザインのみは保護しておきたいといったニーズがある。『部分意匠』という制度はそのための制度で、物品の特徴的な部分のみを権利化できるようにしたものだ。
仕様やこれまでの経緯からある程度形状が決まってくることがあり、商品全体で新鮮さを出すには困難な場合がある。その場合、ある部分だけに変化を付けて新鮮味を出すことが行われる。最近テレビコマーシャルでよく見る三菱自動車のデリカミニのフロント部分のデザインはユニークだ。横にその特徴をイメージした犬のぬいぐるみを置いて、そのデザインの特徴を上手く強調している。調べてみるとその軽自動車のものと思われるヘッドライトやフロントグリル部分が『部分意匠』として登録されていた。消費者の購買動機にはデザインも大きな要素となる。性能や価格で他社との差別化が困難な場合には、デザイン勝負ということもあるだろう。部分意匠制度を上手に使っている例だと思う。『部分意匠』を活用することで企業は独自性を守り、消費者の目を引くことができるのである。意匠は商品の魅力を高め、競争優位を確保する重要な戦略である。読者の皆様の周りにも、意外とこうしたデザイン戦略が潜んでいるかもしれない。デザイン保護や意匠権に関する疑問があれば、ぜひ四国会の弁理士に相談していただきたい。
日本弁理士会四国会 弁理士 村上武栄