歌手っていくらもらえるの??
1.はじめに
「テレビで一回歌ったら、歌手[i]はいくらもらえるの?」
弁理士で音楽業界人でもある私は、こうした質問をよく受けます。最近では質問のベクトルが少し変わり、「YouTubeで一回再生されたらいくらもらえるの?」と聞かれることも増えましたが、このように、歌手の収入の仕組みは多くの人にとって興味あるテーマのようです。
そこで今回は、歌手が歌から得られる収入のうち、テレビ、インターネット、音源の3つについて簡単にご紹介しようと思います。
2.歌手がテレビで歌って得られる収入は?
「歌手」はその名の通り、歌を歌うことを生業とする人々のことです。
四国からも、香川出身ブギの女王「笠置シヅ子」、愛媛のパワフルな歌姫「Superfly」、もはや歌よりけん玉で有名な高知の「三山ひろし」と、日本を代表する歌手が輩出されており、同郷の誼で思い入れ強く応援されている方はたくさんいると思います。
そんな彼ら「歌手」がテレビで歌って得られる収入ですが、皆さんのご想像に反し、テレビ出演はあまり高額なギャラにはなりません。例えば、民放の音楽番組の場合、そのギャラは数万円から10万円程度が一般的です。よく「ハリウッドスターのギャラは○億円」といった話を聞くので、日本の歌手も相当もらっていると思われているようですが、実はそうでもないのです。
例えば、大晦日の国民的音楽番組に出演して「〇○出場歌手」という肩書が付くと、地方イベントでの出演ギャラが通常よりも高くなる傾向にあります。このように、多くの歌手(とその事務所)にとって、テレビ出演は、歌唱パフォーマンスに対する高額な収入を求めるものというより、テレビを通して歌を聴いてもらうことで、音源が売れたり、イベント出演などのプロモーション活動の意味合いが強いものなのです。
3.歌手がインターネットで得られる収入は?
インターネットは、歌手にとって、今や収入面でもプロモーション面でも不可欠なツールです。
特に、動画投稿サイト「YouTube」は、登録者数や再生回数に応じて多額の収入を得ることが可能なメディアで、音楽業界でも最も重要視されている収入源の一つです。一方で、同じ動画投稿サイトでも「TikTok」は膨大な再生回数を分母とするため、1再生あたりの収入は低くなります。しかし、TikTokの場合、バズることでYouTubeなど他のプラットフォームの再生回数が増えたり、ライブやグッズ販売の集客効果に繋がるケースが多く、それ自体が重要なプロモーションツールとして機能しています。
ちなみに、近年は、「歌い手」と呼ばれる新たなジャンルの歌手や、中の人がアバターで歌唱活動をする「バーチャルシンガー(Vsinger )」など、10代~20代の若年層に支持され、インターネットを活動の場とする歌手の台頭が目立ちます。彼らは、テレビに出演しCDを売ってきたこれまでの歌手とは異なり、その収入のほとんどがインターネットを通じて得られるものです。「投げ銭」や「スパチャ」といった、ファンがインターネットを介して金銭的応援をする方法も確立され、歌手の収入の仕組みは激変しています。
4.歌手がリリースした音源で得られる収入は?
皆さんは、好きな歌手の歌を、CDで買ったり、配信をダウンロードしたり、サブスクで聴いたりして楽しんでいると思います。このようにして皆さんが聴いている音楽は、歌手がレコード会社と契約して製作した音源が世の中に頒布されたものですが、歌手は自分の歌を録音して音源を製作する際、レコード会社から歌唱印税をもらう契約をします。
例えば、CD1枚が3000円で売れた場合、歌手が得られるのは、一般的な契約で、1枚当たり約30円から90円程度です。一方、サブスクでは、1再生あたりの収入は約0.03円~0.2円(プラットフォームや契約内容により差があります)と非常に低い金額ですが、再生回数が多いほど安定した収入を得られる仕組みです。例えば、1再生あたり0.1円のプラットフォームで100万再生された場合、歌手は10万円の収入を得ることができます(あくまで一例であり、レコード会社等との契約内容によって都度異なります。)。
他にも、CMや映画、結婚式のプロフィールムービーなど、音源が多種多様に使用される度にレコード会社に使用料が入り、歌手はそこから契約に応じた印税を受け取っています。そのため、楽曲がヒットすると、音源がたくさん使われ、歌手には多額の歌唱印税が入ることになります。この辺りの収入は皆さんのご想像と近いかもしれません。
5.まとめ
以上、歌手が歌から得られる収入のうち3つのケースについてごく簡単に紹介しました。
もちろん、歌手が歌って収入を得るシーンはこれだけではありませんので、ご興味のある方は、一社)レコード協会[ii]や公社)日本芸能実演家団体協議会[iii]のHPなどを参考になさってみてください。皆さんが応援している歌手の収入について、少し知ることができるかもしれません。
6.おわりに
ところで、皆さんは2024年大晦日の国民的音楽番組で、徳島出身の異才「米津玄師」の素晴らしいパフォーマンスをご覧になりましたか?きっと多くの視聴者が彼の歌に心動かされたことと思います。その出演の際の米津さんの収入がいくらだったのかはわかりませんが、このコラムを読まれた皆さんは、出演がもたらした収入についてちょっとご想像頂いても面白いかもしれません。心動かされたあとに収入のことを想像するのも少し現実的すぎるかもしれませんが(笑)。
ということで、また機会があれば音楽のお話をしますね。
それまで『さよーならまたいつか!』[ⅳ]
[i] 著作権法では「実演家」といい、著作隣接権を持っています。これに対し、音楽著作物である楽曲を創作する作詞家・作曲家は著作権法では「著作者」といい、著作権を持っています。
[ii] https://www.riaj.or.jp/(2025年1月27日確認)
[iii] https://geidankyo.or.jp/(2025年1月27日確認)
[iv] 作詞・作曲:米津玄師(2024年度上半期NHK連続テレビ小説「虎に翼」主題歌)
日本弁理士会四国会 弁理士 城田晴栄