コラム

2024.11.05
特許

特許のお値段

特許権を売買するとしたら、いったいどれほどの金額になるのか、考えられたことはあるでしょうか? 特に個人の発明家の場合は、特許は最終的に売るためのものでしょうから、そのお値段には関心が高いと思われます。多くの個人発明家は自信満々で自分の発明を見積もります。
1.誰も思いつかないすごい発明だから○○円
2.苦労して発明し、苦労して特許権を取得したのだから○○円
3.この発明を実施化すれば少なくとも○○個売れ、1個当たり○○円儲かるから、価値は○○円
最後の主張は一見、現実離れしているようにも思えます。
私も弁理士なので特許は重要と思っていますが、その値段を示すことは不可能だと昔は思いこんでいました。しかし、今は特許権を始めとして知的財産の価値が論じられるようになっており、○○円というように金額を出すこともされています。裁判所がその評価を依頼するケースも見られます。
それでは、どうやって特許の値段を決めるのでしょうか。ときどきお客さんから特許公報を示されて「この特許、いくらですか?」と聞かれることがあるのですが、明細書や図面を見ても特許の価値はわかりません。ではどうする? 先の個人発明家の3つの主張を例にしますと、3の考えが価値評価の主流となっています。
昔話のさるかに合戦の冒頭に、かにと猿がお握りと柿の種を交換する場面があります。かには、この交換が得なのか損なのかを考えます。今すぐ食べられるお握りの価値はわかりやすいのですが、柿の種はそのまま食べられず価値が見えません。そこで猿は説明します。この種をまけば芽が出て木が育ち、やがてたくさんの柿の実を食べられるようになる、と。つまり、新たな事業計画を示し、将来の利益を算定し、それに基づいて種の価値を論じます。
子どもたちはこの場面で、おさるさんの説明を疑わしく感じ、自分ならお握りを渡さないと考えるでしょう。しかし、このように将来の利益を見越して価値を評価する考え方が、今の主な手法となっています。その特許を使った事業から得られるであろう将来の儲けを基準にして価値評価する、これをインカムアプローチと呼んでいます。要は、特許そのものの価値というよりも事業の価値の評価になります。
では、事業における将来の儲けをどのように見積もるか。既に利益の上がる事業を行っており、特許を事業と共に譲渡する場合には、これまでの利益が有力な根拠になるでしょう。この点で、自己の事業を持たない個人発明家はつらいでしょう。企業にとってもこれから始める事業については、参考となる過去の利益の情報はありません。すると猿の主張のような皮算用は基本になります。その事業計画をどれだけしっかりと立てるかが勝負となります。
事業計画は何も特許の価値評価のためだけに作るものではありません。その事業を成功させるために、綿密に周到に作られる(はずです)。
事業の儲けに基づいた評価には、一定の合理性があります。その特許権を導入すべきか、いくらまでなら払えるか、という観点では有力な指標となるでしょう。購入費用を社内で承認してもらうための重要な根拠や、相手方との価格交渉の基準としても活用できるでしょう。そいう意味で、知的財産の導入に関する議論におけるコミュニケーションツールと意味は大きいと思います。
日本弁理士会四国会の弁理士は、知的財産の適切な活用と価値評価を通じて、皆さまの挑戦を支援します。ぜひご相談ください。
 

日本弁理士会四国会 弁理士 松島理