購買部門が知るべき特許情報の活用法
日本弁理士会四国会にて、会務計画委員会に所属しております阿出川豊(あでがわゆたか)と申します。私自身は愛知県出身ですが、長男を徳島市立の小学校に通わせ卒業させたというご縁もあり、同市に事務所をおいております。私は、神奈川県、静岡県で長く化学産業に携わっておりました。特許出願については、まず研究者(筆頭発明者86件)として、その後社内弁理士(中間処理約1000件他)として、計20年以上関わったのですが、その中で様々な事件に遭遇してきました。このコラムでは、ちょっと変わった周辺の話題を取り上げてみます。
企業における特許活動は、一般的には研究開発や製造部門と密接に結びついた活動のみとして捉えられがちです。しかし、近年のビジネス環境の変化により、購買部門も特許情報の重要性を認識せざるを得ないケースが増えているのではないでしょうか。
化学メーカーにおいて、特許権が満了した原材料の調達価格を見直さず、競合他社に出遅れた事例があります。これは、企業が特許情報を適切に活用しなかったことによる影響を示しています。
あるメーカーF社が特許権で保護されていた特定の原材料をサプライヤーAから購入して使用していたと仮定しましょう。この特許が満了(出願から20年)すると、他のサプライヤーも同じ素材を自由に製造販売できるようになります。この時、購買部門が原材料の調達価格を見直さず、特許権が有効だった時期と同じ価格で調達を続けると、すでにサプライヤーAと価格交渉を終えた競合他社Tが同じ素材を使用してコストを下げ、価格競争力を高める可能性があります。
結果として、その企業は原材料のコスト面で競合他社に出遅れることになります。競争力が低下すれば、顧客や市場シェアを失うリスクが高まります。さらに、競合他社が原材料の価格変動に柔軟に対応できる中、企業自体はコスト構造の見直しを急がなければならないかもしれません。
この事例は、特許情報が調達戦略にも影響を与えることを示しています。特許権の満了は、原材料調達価格に変化をもたらす可能性があります。購買部門がこれを見逃すと、競争力の低下といったリスクを招く可能性があります。
したがって、企業は特許情報を継続的に監視し、特許の満了や変更が自社の調達戦略にどのような影響を与えるかを慎重に検討することも重要です。特許権の満了後も、購買部門が適切に対応することで、競争力を維持し、市場での地位を確立することが可能です。
また、特許情報は供給チェーンのリスク管理にも不可欠です。特許侵害の訴訟に巻き込まれることにより、サプライヤーが供給不安に陥るケースがあります。購買部門が特許情報を考慮に入れることで、これらのリスクを事前に予測し、適切な対策を講じ得ます。こうして、自社の調達戦略を適切に調整し、やはり競争力を維持することが可能となります。
このように、特許情報は企業活動の意外な側面に影響を与える重要な要素となっています。各部門がこれを適切に認識し、活用することで、企業の競争力強化やリスク管理に大きく貢献することを知っていただければ幸いです。そして、ぜひ専門的知見を有している弁理士までご相談いただけたらと思います。
(上記見解は筆者個人の見解であり、所属組織の見解ではございません)
日本弁理士会四国会/弁理士(特定侵害訴訟業務付記)
阿出川豊